健大高崎・宮嶋大輔コーチが指導者として踏んだ甲子園の土

健大高崎の宮嶋大輔コーチが、第 97 回選抜高校野球大会で連覇を目指す。同校と東北福祉大で学生コーチを務めた経験豊富な若手指導者が、後輩たちの成長を見守っている。

健大高崎・宮嶋大輔コーチが指導者として踏んだ甲子園の土

第 97 回選抜高校野球大会(3 月 18 日開幕、甲子園)で連覇を目指す健大高崎(群馬)の宮嶋大輔コーチ(26)。同校と東北福祉大で学生コーチを務めた経験豊富な若手指導者が、後輩たちの成長を見守っている。

宮嶋大輔コーチ、笑顔がトレードマークの 26 歳。健大高崎の選手時代は俊足巧打の内野手としてプレーした。右肩故障の影響で 3 年時から学生コーチに転身すると、仙台六大学野球リーグの名門・東北福大野球部でも学生コーチを務めた。卒業後の 21 年から母校で守備部門の指導を担っている。

「今、チームは順調に来ていると思います。去年の選抜は創部初の日本一を獲れて、今年は連覇への挑戦権を得ることができました。選手とともにチャレンジャー精神を持って挑みたいと思います」

スカウティングに優れ、全国から逸材が集う健大高崎。その誰もが高校野球のスターになる野望を抱いてやって来る。かつて長野から越境入学した宮嶋コーチもそうだった。

「私の(中学時代)2 学年上に健大高崎に進学した選手がいたことで知りました。(走力で相手を圧倒する)機動破壊で甲子園 4 強入りした姿を見て憧れましたね。他の高校と全く違ったチームカラーに惹かれ、進学を希望しました」

中学時代、小技、足技を得意とした宮嶋。健大高崎は己の武器を最大限発揮できる進学先に思えた。だが、2 年夏に利き腕を操る右肩を故障し、同年冬の練習期間もリハビリに費やした。翌春には医師の「GO」が出て、スローイングを再開するも雷が落ちたような痛みが走った。選手生命の終わりを告げるような激痛。思い描いた大会でのベンチ入り、甲子園出場の夢がかすみ「こんなつもりで健大に来たワケじゃない。両親やサポートしてくれた方に顔向けできない」と現実を受け止められなかった。野球の神様に怒りすら湧いた。

高校で野球人生の終わりを悟ったとき、(1)野球を諦める、(2)野球部で他の居場所を探す、のいずれかを選ぶことになる。宮嶋は後者だった。

「(当時の)葛原コーチに学生コーチ転身を勧められました。正直、最初は“かっこ悪いな…”っていう思いもあったんです。それでも、いざ最終学年で大会に挑んでいくと自分のことよりも、自分たちの代で甲子園に行きたいという思いが日に日に強くなった」

新チームが始動した直後の秋季大会では樹徳に 1―11 の 5 回コールド負けを喫し、「谷間の世代」と言われた。それでも最後の夏は群馬大会で決勝進出。甲子園出場は果たせずとも達成感があった。「自分が練習を手伝った子が試合で活躍すると、その子と同じくらい喜べるんですよ。自分たちで考えながら、指導者とぶつかりながら、チームが成長した達成感がありました」。喜びに浸る機会は選手時代よりも増えていた。

健大高崎では指導者としての喜びに気づき、そして元山飛優(西武)、山野太一(ヤクルト)と同学年だった東北福祉大では指導者としての基礎を築いた。プロ野球選手を輩出してきた名門の選手たちはハングリー精神に満ちていた。元山ら二遊間の選手たちは午前 7 時にスタートする休日練習の 1 時間半前にはグラウンドに集まり、学生コーチの宮嶋にノックを求めた。宮嶋が打ち、元山が捕る、宮嶋が打ち、元山が捕る、宮嶋が打ち…。選手の守備力と比例するようにノック技術は高まり、気づけば狙ったところに打てるようになっていた。

また、全国から異なる考えと夢を持って集まった選手たちとの日々でコミュニケーション能力の重要性を体感。「あまり掃除をしてくれない選手もいたりするんです。そんな時に強く言ったり、感情的に言っても動いてくれない。普段の会話を通じて選手の素の部分を知り、性格に応じて伝え方を変えるようになりました」。伝えた方を変えるだけで、今まで反発していた選手が動くようになる。まるで「北風と太陽」のようだった。

野球の神様は簡単にほほえまない。高校 3 年時に実現できなかった甲子園出場。東北福祉大で迎えた学生野球ラストイヤーには人一倍の思いがあったが、まさかの事態が待っていた。4 年生になった 20 年は新型コロナウイルスが大流行し、春季リーグ戦、そして春、秋の全国大会が中止。全国制覇の夢は挑戦する前に散った。「本当に“何でなんだよ”っていう思いで、全てのやる気がなくなった」。そんなとき、母校・健大高崎の青柳博文監督から「事務職員の枠が空いたから帰ってこれるぞ」と誘いがあった。鎮火しかけていた野球への思いが再び、火力を増した。

東北福祉大を卒業した 21 年から「学生」が取れて健大高崎のコーチに就任。「高校でも大学でも自分の代で全国大会に行けなかった。そのやり場のない気持ちを生徒にさせてくない」と誓う。選手とフレンドリーな距離を保つ宮嶋コーチには笑顔が絶えない。ただ、選手たちをシビアに見る目も備える。主力ではなかった選手時代、学生コーチ時代の経験から大所帯のチームが結束するための鉄則を知っている。「1 番大事なのはやっぱり背番号をつけた選手たちの取り組み。結局、スタンドで応援することになった選手たちが“なんでアイツがベンチなの”や“応援したくない”という不満があると、チームは良くない方向に向かう。選手はグラウンドの内外で応援されるにふさわしい行動を心がけることが大事」と言う。

「同世代の指導者よりも数多くノックを打ってきたと思います」と笑う宮嶋コーチ。昨夏の甲子園では初めて試合前に外野ノックを担当した。聖地でバットを振った時間は約 3 分。「本当に一瞬。言葉では言い表せない不思議な感覚でした。同じ野球のグラウンドなんですけど、やっぱり甲子園は違いました」。今春選抜でもノックを担当する予定だ。かつて「かっこ悪い」と思った学生コーチ就任。その道はコーチとして甲子園の土を踏む未来につながっていた。(柳内 遼平)

◇宮嶋 大輔(みやじま・だいすけ)1998 年 10 月 19 日生まれ、長野県松本市出身の 26 歳。健大高崎では内野手としてプレーし、3 年時は学生コーチを務める。東北福祉大野球部の学生コーチを経て、卒業後に健大高崎の事務職員となり、野球部では守備部門のコーチ。尊敬する人は健大高崎の生方啓介部長、青柳博文監督。趣味はウエートトレーニング。

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