【春場所】豊昇龍が貴乃花以来 30 年ぶりの〝失態〟 不安視される「一人横綱の重圧」
大相撲春場所初日、新横綱豊昇龍が小結阿炎に一方的に突き出される完敗を喫して黒星発進。新横綱が初日に敗れるのは、1995 年初場所の貴乃花以来。横綱経験者からは「一人横綱の重圧」が不安視されている。

大相撲春場所初日(9 日、大阪府立体育会館)、新横綱豊昇龍(25=立浪)が小結阿炎(30=錣山)に一方的に突き出される完敗を喫して黒星発進となった。新横綱が初日に敗れるのは、1995 年初場所の貴乃花以来。角界待望の新横綱は、地位に見合うだけの責任を果たすことができるのか。横綱経験者からは「一人横綱の重圧」が不安視されている。
新横綱が格下に出はなをくじかれた。豊昇龍は立ち合いで張り差しを狙いにいくも不発。逆に阿炎にもろ手で突き起こされると、何もできないまま一方的に突き出された。取組後は「(立ち合いで)ちょっと失敗した。(阿炎は)はたきがあるからね」と淡々とした口ぶり。「今日の負けはしょうがない。まだ初日。明日から一日一番、しっかり集中したい」と気持ちを切り替えた。
やはり、目に見えないプレッシャーがあったのか。豊昇龍は春場所の番付発表会見で「すごく責任を感じる。ちょっと怖い」と胸の内を明かしていた。この日の横綱デビューを終えて「緊張はそれほどでもない」としながらも「(横綱)土俵入りの方が緊張した」と吐露。これまでとは異なる役割に戸惑う様子ものぞかせた。
音羽山親方(39=元横綱鶴竜)は、豊昇龍の置かれている立場について「自分の時は先輩(横綱)がいたから。彼は一人だから、そういう難しさがある」と指摘する。大関以上に「優勝」という結果が求められることにも「もちろんですよ。今は特に(横綱が)彼一人だから。余計に(プレッシャーが)かかってくるんじゃないですかね」と責任の重さを強調した。
同親方が新横綱となった当時は、白鵬と日馬富士の両横綱が君臨。番付上は同じ横綱でも、先輩横綱を追いかける状況だった。一方で、今場所で横綱を名乗る力士は豊昇龍のみ。過去をさかのぼってみても、新横綱の場所で一人横綱だったのは玉錦と曙だけだ。横綱デビューでいきなり重責を一身に背負うことは、並大抵のことではない。
さらに、横綱は賜杯を抱いて初めて〝一人前〟と見なされる側面もある。横綱初優勝まで 9 場所を要した音羽山親方は「つらかったし、長かった。自分は横綱に上がってすぐに肩をケガして…。自分や身内が分かっていても、周りで見ている人はそこまで知らないから。でも(立場上)『ここが痛いんです』『まだ治っていないんです』とは言えないじゃないですか。『大丈夫です』と言うしかない。もう、自分との戦い。結局、自分に勝てなければ相手にも勝てない」と自身の経験をもとに力説した。
豊昇龍は場所前に「何が起きても休場はしない。負けても休場はしない。最後までやります」と皆勤を宣言。この日は、右ヒジに巻いたサポーターについて問われると「言い訳にはしない。(力士なら)全員、どこか痛い」と気丈に答えた。果たして、新横綱は 15 日間を務め上げ、賜杯にたどりつくことができるのか。最後まで気の抜けない戦いが続くことになりそうだ。