J リーグから欧州への移籍金問題:南野拓実、中村敬斗の例
J リーグから欧州へ移籍する際の移籍金問題について、モラス雅輝氏が語る。

J リーグから欧州への移籍金問題:南野拓実、中村敬斗の例
日本と欧州のサッカー界を熟知するモラス雅輝氏が語る「移籍金問題」 J リーグ→オーストリア→5 大リーグと進んだ南野拓実と中村敬斗【写真:Getty Images】 「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、現場の声を重視しながら日本サッカー界のあるべき姿を模索していく。今回は J リーグの浦和レッズとヴィッセル神戸でコーチを務めた経験を持ち、現在オーストリア 2 部ザンクト・ペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U-18 監督を兼務するモラス雅輝氏に、日本から欧州クラブへ移籍する際の「移籍金問題」について語ってもらった。(取材・文=中野吉之伴) 【実際の映像】海外驚き「なんてプレーだ」 中村敬斗の 2 人置き去り“無双 40m 級ドリブル”突破シーン ◇ ◇ ◇ 選手の移籍金は高額であればあるほど良いのか? 欧州に活躍の場を求めて移籍する選手の数はこの 20 年間どんどん増えてきている。そしてこの傾向はさらに続いていくだろう。クラブ間で移籍をする際には場合によって移籍金が発生する。これは選手が現在結んでいる契約を破棄して他クラブへと移るために補填として支払われるものであり、違約金とも呼ばれる。 世界トップレベルで見ると、天文学的な数字が並んでいる。例えばブラジル代表 FW ネイマールが、2017-18 シーズンに FC バルセロナからパリ・サンジェルマン(PSG)へ移籍した時の移籍金は 2 億 2000 万ユーロ(当時のレートで 300 億強)。今季も数多くの大型移籍が実現している。 巨額のお金が動くマーケットを見ていると、そこに夢を感じる人もいるだろう。違約金ビジネスに日本ももっと乗り出すべきだという話をよく耳にしたりする。欧州の舞台で活躍する日本人選手が増えているなか、日本から欧州移籍の際にもっと高い基準を設けたほうがいい、と。そうかもしれない。 ただ、そうした議論を始める前に、まず欧州における現場の情報を正しく理解して、整理することが必要だ。 オーストリアを中心に 20 年以上の指導者歴を持ち、現在オーストリア 2 部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U-18 監督と複数のタスクを兼任しているモラス雅輝氏は、「現地の情報をちゃんと押さえておかないと、交渉しようにも誤解が生じてこじれる要因にもなってしまう」と警鐘を鳴らしている。ザンクトペルテンの女子チームは UEFA 女子チャンピオンズリーグ(CL)の常連である一方、モラス氏は 2014 年にオーストリアブンデスリーガ・スポーツマネジメントアカデミーを、アジア人として初めて卒業した人でもある。現場における造詣は非常に深い。 「まずクラブ経営やリーグの健全なあり方の第一前提として、移籍金に頼らないクラブ経営をするというのが、すべての一歩だと捉えないといけない。例えば、ヨーロッパには経営予算のほとんどが選手の移籍金から成り立っているクラブもあるという主張もあるんですが、これってクラブ経営においてまさしくやっちゃいけないと言われているやり方なんです。ブンデスリーガのスポーツマネジメントアカデミーで『移籍金というのは臨時収入であって固定収入ではない。臨時収入をベースとなる予算に入れて会社を経営する民間の会社はありますか』という話をじっくり聞きました。もちろん移籍金で成り立っているのは凄いことなんですが、何か 1 つ上手くいかないことがあるとクラブそのものがなくなる危険性だってあるわけです。なので『移籍金で成り立っているクラブがヨーロッパにたくさんあります』というのを、ポジティブに捉えるのは危ないなと思います」(モラス氏)