健大高崎の3本目の矢、島田大翔の生存戦略

第 97 回選抜高校野球大会で連覇を狙う健大高崎の 3 本目の矢、島田大翔。最速 144 キロの直球と縦に割れるカーブを武器に、チームの連覇に貢献する。

健大高崎の 3 本目の矢、島田大翔の生存戦略

第 97 回選抜高校野球大会(3 月 18 日から甲子園)で連覇を狙う健大高崎(群馬)は 10 日、千葉県館山市内で合宿を行い、紅白戦では最速 144 キロ右腕・島田大翔(つばさ=2 年)が先発で好投した。変幻自在のテンポを駆使し、3 回を 1 安打無失点でアピールに成功した。

「昨日も投げたんですけど制球やストライク率が悪かった。石垣と下重がいる中、自分が投げるのはショートイニングなので、テンポよく攻撃につながる投球をしようと考えていました。木村(亨)コーチと“ストライクゾーンの中で勝負する”と課題に挙げたので、それを意識して投げられました」

選抜出場校の中で健大高崎はトップクラスの投手陣を備える。エースの最速 158 キロ右腕・石垣元気(2 年)は今秋ドラフトで 1 位候補に挙がる逸材。1 メートル 82 の大型左腕・下重賢慎(2 年)は制球力を武器に多彩な変化球を操り、大学、プロの双方から高く評価されている。ただ、この 2 人が常に万全である保証はない。チームテーマの「連覇」達成には 3 本目の矢が不可欠だ。

絶対的な両輪がいる状況で、島田には唯一無二の強みがある。この日の紅白戦ではテンポで打者を翻弄(ほんろう)した。ゆっくりと足を上げて、タメをつくって投じた直球でミットを鳴らしたかと思えば、ほぼ足を上げない超クイックモーションで簡単にストライクを奪う。打者に自分の打撃をさせないままに追い込み、有利なカウントで勝負を進めた。

野球の技術が SNS を通して広く共有されるようになった現在、大抵の高校生がクイックで投げられるし、革新的な技術でもない。ただ、島田の強みはクイックで多彩な球種を投げることができ、かつストライク率が高い点になる。クイックでせっかく打者のタイミングを外しても、ストライクを取れなければ効果は半減する。島田の「必殺技」の原点は中学時代にあった。

島田は駿台学園中(東京)では軟式野球部に所属。二塁、三塁、遊撃を守るユーティリティー性の高い内野手として活躍し、投手に専念したのは 3 年になってから。内野手でプレーする時間が長かったからこそ「クイックスロー」が体に染みつき、投手としてのクイックモーションの際、体勢やタイミングが多少ズレても、正確に「送球」できるのだ。

選抜に向け、メディア各社に回答するアンケート。尊敬する人の欄には「仙台育英 元主将 湯浅桜翼さん」と記している。駿台学園中軟式野球部では内野手の先輩だった湯浅は仙台育英に進学し、23 年夏の甲子園では三塁手として準優勝に貢献。選抜でメンバー入りを果たせば初の甲子園となる島田。先輩の言葉を忘れない。

「湯浅さんは中学の時にポジションが一緒で目標にしている選手でした。いつも LINE や電話で甲子園の楽しさや大事なことを聞いています。“甲子園では経験のない大応援が聞こえるけれど、守っている時もそれを自分の応援と捉えることが大事”と教えていただけたので、自分も甲子園で投げる時に生かしたいと思います」

島田は中学時代、3 年夏に全国優勝を果たした輝かしい経験を持つ。投手一本で勝負した健大高崎では 144 キロまで最速を伸ばし、「頭の後ろでリリースする感覚」という縦のカーブは一級品で、制球力も高い。全国から逸材が集う健大高崎を選ばなければ、注目投手として騒がれていたかもしれない。それでも「石垣や下重がダメだった時に抑えたい」と 3 本目の矢としての矜持がある。湯浅先輩が楽しそうに語っていた憧れの甲子園。この春、必ず踏みしめる。(柳内 遼平)

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